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2009/04/01の記事です

北海道の素材と江戸前の作法

板前さんのホームグラウンド、札幌

画像:鮪の赤身
鮪の赤身
 
 札幌で食事といえば、大盛りの海鮮丼、ジンギスカン、それからラーメンですかね。もちろん大好きなんですが、大味(おおあじ)で食べ疲れてしまうんじゃないかな、というイメージが消えません。「気合い入れて食うぞ」という、「気構え」がいるような気がするんです。
 だから、北海道大学で仕事を終えた翌日、「お昼、お寿司行く?」と誘いを受けたときには、でっかいすしネタを「これでもか」と食べる自分を想像してしまい、少しだけ躊躇しながらホテルをチェックアウトしたんですよね。 ともかく、待ち合わせ場所の地下鉄円山公園駅で降り、車で拾ってもらって「すし善」に到着。お店の方に、丁寧にお出迎えしてもらいました。
 北海道神宮参道の一角が、全部お寿司屋さんなんです。日曜日だからか、交通量もほとんどないこの場所は、「閑静な佇まい」という表現がぴったりで、店とのれんが似合いますね。雪が降った翌日で晴れてきて、風がすがすがしい。この時点で、いつもの「さぁ食うぞ」って無理やり気合い入れる感じでは、なくなります。 和室の上がりに通されたら、本当にきれいな個室。あまり見たことのない立派な座布団に腰掛け、少しだけ緊張しました。しかも上座なものですから。
 あざやかな緑の手ぬぐいが目の前に。「持ち帰ってもいいんですよ」と伺いながら、お昼からビールで乾杯。雪見障子を開くと、ガラスの向こう側からは積もった雪から明るい日差しが跳ね返ってきます。すがすがしいハレの日の、お祝いの席みたいになってきました。実際、地元の家族が、お祝いの席で使うことも多いそうです。接待などで、ゆっくりお話をするにもいい感じ。
 友人にいろいろ伺いたいこともあったので、ちょうどいい場所だと思いました。

 お寿司10カンのお昼のセットを注文しました。
 最初に出てきたのは、レンコンと菜の花のおひたし。春の訪れを表現するために、あえて菜の花のつぼみがついたものを仕入れたのでしょうか。

 その後、お寿司だったんですが、いつもの「どかーん」という登場ではないです。いや、「どかーん」は「どかーん」なんですが、すしげたの上には、何というか、ひとつひとつ丁寧に作り込まれたお寿司が、上品に並んでいるんです。
 決して「煩悩全開」「さあ食うぞっ」ていう臨戦態勢にはしてくれません。このお寿司の彩りを話題にして、まずはどうしてもコミュニケーションしてしまいたくなります。

 まず目についたのは、新聞で言えば一面の右上に位置していた「たこ」。包丁でかざりのような切れ目が入っています。完全な茹でだこではないようだ。煮きりと薬味がついてるのかなって食べてみると、「やわらかいっ」。薬味は、わさびじゃないみたいだけど、ゆずコショウかな。

 白身魚のコブじめは、「ひらめ」ですかね。いや「タイ?」とか思いながら口にいれた瞬間、「昆布と魚の旨みみたいなのが口のなかに拡がるっ。おいしいですね」。日本海のひらめでした。

 これは、多分「江戸前すし」というカテゴリーなんですよね。北海道の台所に集まる素材を、江戸前の作法でお寿司にしているわけですか。
 札幌は現在のような冷凍技術が発達する前から、生の素材をそのまま使うことができました。そこに江戸前の技も合流した、ということで現代日本のお寿司の食べ方は、いったん札幌で完成したようです。ここの社長さんも、銀座で修行なさったと聞いて、さらに「なるほど」でした。
 とてもいい素材、それをお寿司にする技。いくつもの立派なカウンターや個室。若い方も日本全国からたくさん修行に来ているらしく、「板前さんのホームグラウンドは札幌。本当のお寿司は札幌です」になるかもしれませんね。

 ようやくお寿司の話題から仕事っぽい話に移ったところで、ちらっと目にとまった「まぐろの赤身」をパク。いきなり「いつものマグロと違いますねっ」って、人のまじめな話を思いっきり遮ってしまいました。
 何というか「まぐろたっぷりの甘くない綿菓子」というか、繊維がやわらかく拡がって、いつもと違うんです。中トロの脇役の位置に甘んじる赤身じゃないんです。
 函館、戸井のマグロだそうです。マグロを漁った瞬間にシメる方法があって、すぐに保存するから違うそうです。100年先の読者に「残酷」と言われるかもしれないですね。すみません。でもおいしい。今日一番の煩悩全開の瞬間。話もお寿司に戻してしまいました。

 「いやー、おいしくいただきました」と思ったら、2皿目が登場。そうか、全部で10カンだったものね。
 オリジナルの「トロタク巻き」、これも食感がいいですね。「あなご」は、本当にムラのない色合いで、ほっかりとしています。
 お味噌汁からそのまま一気にデザートへ。十勝のあずきなんでしょうね。甘過ぎない、固くないシャーベットで、すっかりお腹いっぱいになってしまいました。

 目の前の食べ物の話ばかりしてしまったのは、本当に久しぶりでした。でも、自然とそうなったんですよ。本当に。

 結局、仕事のお願いと相談をしたのは、帰りの車の前でした。

(2009年4月1日・田中康文)

 

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すし善

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