板前さんのホームグラウンド、札幌
![]() 鮪の赤身 |
| 札幌で食事といえば、大盛りの海鮮丼、ジンギスカン、それからラーメンですかね。もちろん大好きなんですが、大味(おおあじ)で食べ疲れてしまうんじゃないかな、というイメージが消えません。「気合い入れて食うぞ」という、「気構え」がいるような気がするんです。 だから、北海道大学で仕事を終えた翌日、「お昼、お寿司行く?」と誘いを受けたときには、でっかいすしネタを「これでもか」と食べる自分を想像してしまい、少しだけ躊躇しながらホテルをチェックアウトしたんですよね。 ともかく、待ち合わせ場所の地下鉄円山公園駅で降り、車で拾ってもらって「すし善」に到着。お店の方に、丁寧にお出迎えしてもらいました。 北海道神宮参道の一角が、全部お寿司屋さんなんです。日曜日だからか、交通量もほとんどないこの場所は、「閑静な佇まい」という表現がぴったりで、店とのれんが似合いますね。雪が降った翌日で晴れてきて、風がすがすがしい。この時点で、いつもの「さぁ食うぞ」って無理やり気合い入れる感じでは、なくなります。 和室の上がりに通されたら、本当にきれいな個室。あまり見たことのない立派な座布団に腰掛け、少しだけ緊張しました。しかも上座なものですから。 あざやかな緑の手ぬぐいが目の前に。「持ち帰ってもいいんですよ」と伺いながら、お昼からビールで乾杯。雪見障子を開くと、ガラスの向こう側からは積もった雪から明るい日差しが跳ね返ってきます。すがすがしいハレの日の、お祝いの席みたいになってきました。実際、地元の家族が、お祝いの席で使うことも多いそうです。接待などで、ゆっくりお話をするにもいい感じ。 友人にいろいろ伺いたいこともあったので、ちょうどいい場所だと思いました。 お寿司10カンのお昼のセットを注文しました。 その後、お寿司だったんですが、いつもの「どかーん」という登場ではないです。いや、「どかーん」は「どかーん」なんですが、すしげたの上には、何というか、ひとつひとつ丁寧に作り込まれたお寿司が、上品に並んでいるんです。 まず目についたのは、新聞で言えば一面の右上に位置していた「たこ」。包丁でかざりのような切れ目が入っています。完全な茹でだこではないようだ。煮きりと薬味がついてるのかなって食べてみると、「やわらかいっ」。薬味は、わさびじゃないみたいだけど、ゆずコショウかな。 白身魚のコブじめは、「ひらめ」ですかね。いや「タイ?」とか思いながら口にいれた瞬間、「昆布と魚の旨みみたいなのが口のなかに拡がるっ。おいしいですね」。日本海のひらめでした。 これは、多分「江戸前すし」というカテゴリーなんですよね。北海道の台所に集まる素材を、江戸前の作法でお寿司にしているわけですか。 ようやくお寿司の話題から仕事っぽい話に移ったところで、ちらっと目にとまった「まぐろの赤身」をパク。いきなり「いつものマグロと違いますねっ」って、人のまじめな話を思いっきり遮ってしまいました。 「いやー、おいしくいただきました」と思ったら、2皿目が登場。そうか、全部で10カンだったものね。 目の前の食べ物の話ばかりしてしまったのは、本当に久しぶりでした。でも、自然とそうなったんですよ。本当に。 結局、仕事のお願いと相談をしたのは、帰りの車の前でした。 (2009年4月1日・田中康文)
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