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9月 エゾシカの現状

画像:雄のエゾシカ
雄のエゾシカ

画像:雌のエゾシカ
雌のエゾシカ

画像:皮を食われた樹木の前で
皮を食われた樹木の前で(撮影地:支笏湖)

画像:北海道でよく見かける道路標識
北海道でよく見かける道路標識。そして、エゾシカとぶつかり大破する車もあとを絶たない(撮影地:支笏湖)

エゾシカは北海道の自然の象徴

 観光で北海道を訪れる人々がことのほか喜ぶのが、野生動物との予期せぬ出会いです。キタキツネが観光バスの近くにひょっこり現れたりすると、さすが北海道だと大騒ぎになります。しかし、最近ではキタキツネよりもエゾシカと遭遇することのほうが多くなってきました。道東などでは、10年以上前からその傾向が明らかでしたが、ここ3〜4年は支笏湖周辺など札幌の近くでも頻繁にエゾシカを見かけるようになっています。エゾシカのような大型獣が人の近くにも生息していることは、北海道の自然の豊かさを物語るものでしょう。

 エゾシカは、明治期の乱獲と豪雪によって一時は絶滅寸前にまで数を減らし、そのため長く禁猟などの保護政策が取られてきました。第二次世界大戦後まで絶滅に近い状態は続き、昭和30年頃からようやく道東を中心に徐々に増え始めました。そして、昭和60年代頃から農作物を食い荒らすなど農林業被害が目立つほど個体数が増えてきました。同時に、札幌周辺の山野にも再び姿が見られるようになってきたのです。
 数年前には、札幌の市街地(白石区)に現れたエゾシカがニュースになりました。つい先日も、豊平川の河川敷や東区の住宅街に現れましたが、エゾシカが市街地に現れることはもうそれほど珍しくなくなり、あまり大きく報道されないようになってきています。

今では害獣

 札幌でさえ市街地に現れるほどエゾシカは増えているわけですが、道東ではもはや市街地を平気で闊歩(かっぽ)するまでになっています。羅臼町では、庭先でエゾシカが出産することさえ珍しくないようです。
 市街地への出没はともかく、田畑に現れては農作物を荒し、森では樹木を食べるため、農林業に大きな被害を及ぼすようになってきました。その被害額は、年間50億円を超えるほどになり、かつては保護されていた動物が今や害獣と化したと言われています。最近では、札幌郊外の山林でも、ある程度の高さまで樹皮が食われて丸裸になった木々を多く見かけます。樹木は少しくらい樹皮を食べられても大丈夫ですが、ぐるりと全周を食べられてしまうと枯れ死してしまいます。このままでは、エゾシカによって北海道の樹林が壊滅的な状況になってしまう可能性があるのです。
 さらに、夕張山地などでは、絶滅危惧種の貴重な高山植物がエゾシカによって食われたり踏み荒らされたりしているとの報告もあります。つまり、エゾシカは自然の動物でありながら、自然を壊すほどの存在になっているのです。

 また、交通事故も多発していて、エゾシカのような大型獣と衝突すれば、車が大破する深刻な大事故となります。

 札幌を含め、こうしたエゾシカの状況をしっかり認識し、どう対応していくべきかを一人一人が真剣に考える必要があるでしょう。道路際で見かけたエゾシカに、喜んでいる場合ではないのです。

有効活用の道

 今は害獣となったエゾシカをどうするか。その答えのひとつが、我々人間による有効活用です。幸い、エゾシカの肉は脂肪分の少ないヘルシーな赤身肉で、大変美味です。ところが、流通体制ができていないことなどから、エゾシカ肉はほとんど市場に出回っていないのが現状です。本格的に流通させるためには、食品として欠かせない安全性の確保なども課題です。最近では、行政(北海道など)や民間(社団法人エゾシカ協会など)が国に先駆けてこうした未整備の点を少しずつルール化していく動きが出てきました。

 最も大切なのは、我々一般消費者がエゾシカを資源と考えて、積極的に食べるという気持ちを持つことなのかもしれません。地球環境対策が話題に上る昨今、北海道で捕れたエゾシカを北海道で消費することは、限りなくフードマイレージの低い食材を利用することになります。健康にもよく、地球環境にも優しい、古くて新しい食材として、エゾシカを考えることが大切です。札幌でもエゾシカ肉をメニューに取り入れているレストランもありますので、まだ食べたことのない方は、是非一度体験してみることをお勧めします。きっとその美味しさに驚かれることと思います。
札幌のフレンチ
 エゾシカの肉を使ったフレンチなどが紹介されています

 また、食材としてだけでなく、皮の利用なども進めていくことも必要でしょう。資源としてエゾシカを有効に活用することによって、北海道の自然も農林業も守られることになります。

(2009年9月1日・大橋弘一)

画像:大橋弘一さん

大橋弘一プロフィール
おおはし・こういち

写真家。野鳥及び北海道の自然をテーマとして撮影。書籍・図鑑・カレンダー等への作品提供や雑誌連載などのほか、テレビ・ラジオ出演など多彩に活動。2003年より北海道自然雑誌「ファウラ(faura)」編集長。「散歩で楽しむ野鳥の本」「庭で楽しむ野鳥の本」(以上、山と溪谷社)、「鳥の名前」(東京書籍)、「自然ガイド支笏・樽前」(北海道新聞社)など著書多数。最新著書は「北海道野鳥ハンディガイド」(北海道新聞社)。札幌市在住。

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