自然いっぱいの中をオートバイで行く
北海道には、古くからとても良い習慣がある。それは、荷物をいっぱい積んだオートバイ、自転車、そしてリュックを背負って徒歩で旅をしている人同士がすれ違うときに、手を振って挨拶する習慣だ。私がまだ学生で自転車に乗って旅行していた頃、もう既にあったので、少なくとも20年以上昔から続いている習慣だと思う。その意味はというと、お互いの旅の安全と「がんばって行こう」という激励の意味がある。オートバイに乗らない方は、荷物をたくさん積んだオートバイが走っているのを見かけたときには、是非良く見てみてほしい。
先日、北海道の自然を楽しみたいというライダーが、九州から来たので、一緒に走って案内をした。せっかく北海道に来たのだから、思いっきり自然を楽しんでもらいたい。そこで今回は、ヌプントムラウシ温泉の旅に行くことにした。ヌプントムラウシ温泉は、大雪山系の山奥にあり、2009年7月にトムラウシ山で多くの遭難者が出て記憶に新しいが、そこから南西に6kmほどしか離れていない場所である。当然、オートバイといえども軽装で行くのはもっての他で、荷物の4分の1は平時では使うことのない緊急時の対策用のものとなる。水や食料は数日分、登山用のGPS、アマチュア無線機などを装備し、万全の準備を整えての出発である。
新得町から林道に入り、70km程広大な森の中を抜ける砂利道を走る。所々に落石や崖崩れ、倒木、雨水が川のように流れている場所などがあるので、気をつけて先に進む。当然であるが携帯電話などは使えず、かわいい鹿も居れば、熊の糞も落ちている。ガードレールもない峠道などを2時間ほど走ると、静かな谷間に開けた場所が見えてくる。
近くには沼ノ原山の登山道入り口があり、緊急避難用の避難小屋もある。道は一本道で、この林道が通行不能になった場合は携帯電話も通じないため、ここで誰かに気づいてもらうまで生き延びなければいけないのである。 ヌプントムラウシ川にかかる丸太橋を渡ると、新得町が管理をしている温泉がある。きれいに整備され、脱衣所もある。湯船の近くには、100度近い温度の源泉が噴出している。生卵を持参していたので、ネットに入れて源泉近くに浸けておく。10分程でゆで卵のできあがりだ。
ここの温泉は無色透明に近く、ほのかに硫黄臭がして肌がスベスベする泉質である。砂利道の走行は体力を使うため、温泉は疲れた体にとても良く効く。山登りをする人も同様だろう。
入浴後は米を炊き、各自で食事をとる。各自というのは、オートバイでは積載できる荷物に限りがあるため、食料は各自持ってくるためだ。私は、フライパンでラム肉とモヤシを炒めたものとご飯を食べた。蝋燭(ろうそく)や小さなランタンの明かりと懐中電灯の薄暗い明かりで食事をとり、旅の話で盛り上がる。外は天気も悪いせいか、真っ暗闇である。このあたりで明かりをつけているのは我々だけで、他には誰もいない。旅の話は尽きないのであるが、明日のために早めに就寝した。
朝、外が明るくなり目が覚める。朝風呂に入り軽く朝食を済ませ、荷造りをし、来た道を戻り楽園のようなその地を後にした。九州からきたライダーは、とても良い経験ができたと満足そうであった。新得の町で名産のそばを食べてから、彼は北へと旅立ちそして私は家路についた。
(2009年8月1日・星 桂一)
■ 関連サイト
北海道野生動物研究所
新得温泉情報(新得町観光協会のページ)

















